2008年8月27日水曜日

シュナウザーの思い出 1/3

シュナウザーという犬を知ったのは、
テレビのCMがきっかけだったと思う。
10年前か15年前、それよりもっと前かもしれない。
何のCMだったのかも憶えていないが、
ブラウン管の中から首を傾げながら
こちらを見つめるシュナウザーの顔だけ鮮明に憶えている。
「賢そうだけど、なんだか人間みたいで気持ちが悪い犬だな。。。」
そのCMに登場するシュナウザーを見たとき、素直にそう思った。
その当時、いつかは犬を飼いたいと考えていたが、
シュナウザーを飼うことだけはないだろうと思っていた。
髭と眉毛がまるで人間のようで気味が悪かった。
それと、その頃はシーズーやコーギーを飼いたいと思っていたということもある。

その気持ちが大きく変化したのは、今から6年前の夏だった。
8月の下旬、下田に旅行に行った帰りに、
偶然に伊豆高原にある「ドッグフォレスト」を見つけた。
早めに自宅に帰るつもりだったが、
かみさんが「ちょっと行ってみようよ」と言ってくれたので、
寄ってみることにした。
当時はまだ犬を飼うこととができなかったので、
僕たちにとって犬関係のテーマパークは
犬と触れ合うことができる貴重な場所だった。

この日はもう15:00を過ぎていたので
閉演時間まで2時間足らずだったが、
園内は一通り見て回ることができた。
パピーズビレッジでは、
子育て中の母犬と子犬たちをたくさん見ることができた。
可愛い子犬ばかりで、連れて帰りたくなった。
パピーズビレッジを見た後、
ふれあいパークに行ってみた。
ここは犬たちと直接触れ合うことができるエリアだ。
♂の犬と♀の犬が時間交代でこの広場に放されて、
来場した人たちが犬と遊ぶことができるようになっている。
僕たちがそこに行ったときは、
ちょうど♂の犬たちが広場に放されていた。
真夏の閉園前という時間のせいか、
犬たちは疲れているように見えた。
人と遊ぶと言うより、
人に触られるのを嫌がって逃げているように見えた。
犬たちが気の毒に思えたが、
せっかくの機会だったので広場の中に入ってベンチに腰掛けた。
しばらくの間、
追いかけてくる子供から逃げ回る犬たちを眺めていたが、
ふと横を向いたとき、
広場のフェンスの近くに座って
ずっと外を眺めている灰色の犬を見つけた。
こちらに背を向けていたが、そいつの正体はすぐにわかった。
『シュナウザーだ。。。』
この当時はシュナウザーを飼っている人はまだ少なかったので、
普段シュナウザーを見かけることはあまりなかった。
ちょっと迷ったが、
こんな機会もあまりないと思ったので
背後からシュナウザーに近づいてみた。
気配は感じているはずだが、Mシュナは微動だにもしない。
こんなに間近にシュナウザーを見るのは初めてだ。
首や背中は思っていたよりもがっしりとしている。
地べたに座り込んで、背中を撫でてみた。
シュナ、動かず。
首を触ってみた。
動かない。
「ねぇ、何か見えるのかな?」
と声を掛けてみた。
何の反応もない。
頭や腕も触ってみる。
まったく動じない。
これじゃ子供たちもこの犬に寄って来ないわけだ。
まったく反応がなくて、正直面白くない。
でも、もしかするとこいつは、
何も反応しなければ誰も寄って来ないということを
知っているのかもしれないと思った。
ちょっと意地の悪い気持ちも芽生えてきて、
時間が来るまでそのシュナのそばに居座ることにした。
たまに撫でたり話し掛けたりといろいろやってみたが、
そのシュナウザーは振り向くことすらなかった。
しばらくすると、かみさんが近づいてきた。
「シュナウザーじゃん。可愛いね。」
「うーん。。。こいつ、全然反応しないんだけど。。。」
「シュナウザーは頑固って言うからね。」
その後もそのシュナウザーは置物のように動かなかった。
まったく動かないシュナウザーの相手をしている僕を気の毒に思ったのか、
係りのお姉さんが
「このワンちゃんも可愛いですよー」
と言って、大きなブルドッグを抱えて連れてきてくれたりもした。
それでも僕は、そのシュナを構い続けた。
20分くらいそうしていただろうか。
そろそろ広場に放されている犬たちが犬舎に戻る時間になったので、
そのシュナの背中をポンポンと軽くたたいて、
「ばいばい。ありがとう。」
と声を掛けて立ち上がった。
すると、そのシュナウザーも立ち上がって、
右手にある水飲み場にゆっくりと歩いていった。
水飲み場に辿り着くと、
そこにいた別の犬と鼻先で挨拶を交わすような仕草をした。
「お疲れ様。大変だったね。」
「しつこい人間が来て疲れたよ。」
そんな会話でもしているようだった。

車に乗り込んでから、
かみさんにその話をすると、
「きっと我慢して触らせてくれてたんだよ。
我慢強いんだよ、シュナウザーは。。。
警戒心も強いけど、飼い主には従順なんだってよ。」

と言われた。
ただ単に愛想がないというわけではなくて、
自分ができる最大限のことをしてくれたということか。。。
もし本当にそうだったとしたら、
ちょっと可哀相なことをしてしまったかもしれない。
でも、そのシュナのおかげで、
シュナウザーに対するイメージは大きく変わった。
頭が良くて頑固で警戒心が強いけど、
飼い主には従順な犬、シュナウザー。
そんな犬がいつも一緒だったら、
すごく楽しいのかもしれないと思った。
そしてその時、
僕の両手がありえないくらい
犬臭くなっていることに気付いた。

【つづく】

0 件のコメント: